Porch COLUMNぽおちコラム

2022新年号「千の風になって」

2021 Winter

昨年9月14日に、東京都不動産のれん会の60周年記念祝賀会が東京會舘でありました。宅地建物取引業法の成立をはじめ戦後の不動産業の礎は、本会の創設メンバーによって築かれました。祝賀会の最後に、本会の品田会長が親しくされているテノール歌手の秋川雅史さんが、「千の風になって」を歌われました。

「千の風になって」は、作家でありソングライターの新井満さんが、作者不詳の詩「a thousand winds」を自分なりに訳し作曲したものです。新井さんはこの英語詩の本質にあるものをつかもうとしました。“風”とは息であり、大地の息吹であり、千の風になるとは大地や地球や宇宙と一体化することではと考えました。人間としての役割を終えたあと、風となり大空を吹きわたり、さらに雪や光や雨となり姿を変えて生き続ける。即ち、太古の昔からえいえいと営まれてきた“命の大きな循環”の中に組み込まれているのではと考えました。

富士山の写真

昨年8月9日の日経に、「人・自然重視の資本主義に」という記事が載っていました。今世界は、利益偏重の経営の揺り戻しが大きな流れとなり、投資家もESG(環境・社会・企業統治)投資に傾いています。フランスは2019年に、利益だけでなく社会や環境の改善を目的とすることを明記した新法「使命を果たす会社」を制定しました。その第1号となったのが仏食品大手ダノンです。同社のファベール会長は目指す会社像を、「サーブ・ライフ(生命に尽くす)だ。まず自然があり、経済を回すにはその中心に人がいる。製品を作るには植物や土、水などの自然が必要だ。ここに製品を買ってくれる消費者のほかに、製品を作る人、運ぶ人、販売する人がいる。すべての生命を支え、尽くす会社になる。」と語りました。

企業は自然や人の営みを切り離して活動することはできない。その活動が千の風のように自然や人の営みと一体になったとき、社会や環境を改善していくことができると考えればよいのでしょうか。

5年前に、妻が家の中で右の鎖骨を折る怪我をしました。それ以来、私が朝起きて洗濯物を干するようになりました。若い人たちには今さらと笑われそうです。洗濯物を干すようになってからは天気予報を気にするようになりました。そして、ゆっくりと空を見上げるようになりました。空に浮かぶ雲の様子を眺めていると、その多様さにあらためて驚かされます。澄みわたった秋空に、雲が空高く流れては消えていく様子を見ていると、つい時のたつのも忘れてしまいます。そして、いつかは自分だって雲のように空に消えていくのだろうと考えるようになりました。そして、今は、空に消えていくのではなく、空に戻っていくのではと考えるようなりました。そう考えれば、あれやこれやと思い煩うこともなく、瞬く間の命を大切に生きていくだけです。

私たち一人ひとりが、地球さらに宇宙という大河の流れの中にあって、瞬く間の命を終えたあとも、千の風のようにその姿を変えながら、永遠にその流れの中にあると考えればよいのでしょうか。

今年こそ、新型コロナウイルスが収束し、皆様はじめご家族が安心して暮らせますよう心よりお祈りいたします。

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