Porch COLUMNぽおちコラム
2023 冬季号「働くこと」
2023 Winter
我が国の急速な少子高齢化や労働人口の減少にともなって、5年余り前から働き方改革が叫ばれるようになりました。日本経済を持続的に発展させるためには、労働生産性の向上や、高齢者や女性の雇用機会の拡大などが必要です。また、働くことを通して生活の豊かさを実感するためには、長時間労働の是正や雇用環境の改善などが必要です。しかし、働き方改革はあくまでも国として国民生活の豊かさを求める議論であり、そこには働くことの意義など個人に関わる本質的な問いかけはありません。
私が三十代のとき、田坂広志さんの「仕事の報酬とは何か」という講演を聞く機会がありました。そのときのことは、私のその後の仕事において大きな糧となりました。以下がその内容です。その内容は著作物にもなっています。
旅人が、ある田舎町を通りかかった時に、新しい教会を建てていました。現場では二人の石切職人が働いていました。二人の石切職人に、「あなたは、何をしているのですか」と問いかけました。一人目の職人は、不快な表情をして、「このいまいましい石を切るために、悪戦苦闘しているところさ」と答えました。二人目の職人は、表情を輝かせて、「多くの人の安らぎの場となる、素晴らしい教会を建てているところさ」と答えました。この二人の石切職人の寓話は、私たちに大切なことを教えてくれます。
“どのような仕事をしているのか”、それが、私たちの仕事の価値を決めるのではありません。“仕事の彼方に何を見ているのか”、それが、私たちの仕事の価値を決めます。では、仕事の報酬とは何か。目に見える二つの報酬と、目に見えない三つの報酬があります。目に見える二つの報酬とは、「給料」と「役職」です。結果として与えられる報酬です。目に見えるものだけに心を奪われるとき、私たちは大切なものを見失います。目に見えない三つの報酬とは、「職業人としての能力」、「働き甲斐のある仕事」、「人間としての成長」です。自ら求めなければならない報酬です。この報酬を求めない限り、仕事の本当の喜びを得ることはできません。

最近になって、アランの「幸福論」を読む機会がありました。人間は何も努力しなければ幸福になれない、幸福になるには目標をもって行動せよと説いています。93の章に分かれていますが、その49章の「労働」と50章の「仕事」には次のようなことが書かれています。
有益な仕事とは、利益ではなく、心から楽しめる仕事であることがわかる。人間にとって最も楽しい時間は、苦労はあっても人と協力しながら、自分の意志をもってできる仕事に携わっているときであろう。実際に着手し実行することで、未来に光を探り当てる努力ができる。このように仕事を始めることで、きのうの仕事のなかに自分の意志の確かなしるしを残せるようになる。そんな人は幸せだ。
以上の紹介した二人の考えは、働くことの意義をわかりやすく私たちに説いてくれます。私たちの住まいづくりという毎日の仕事が、私たちにとって幸せを見出す希望に満ちた仕事であることを、あらためて思い起こさせてくれます。
新型コロナウイルスの感染が報告されてから4年目を迎え、感染者の数はまだまだ減少しませんが、重傷化の割合は確実に小さくなってきています。皆様はじめご家族の健康を願うとともに、今年一年が皆様にとって良い年となりますよう心からお祈り申し上げます。