Porch COLUMNぽおちコラム
2024 新年号「幸せな暮らしと平和な営み」
2024 Winter
私たちは、社会が平和であることの大切さを、様々な機会を通して実感します。この2年近くはロシアによるウクライナ侵攻を見て、そのことを強く実感しました。昨年10月7日には、パレスチナ自治区で新たにイスラエルとハマスの戦闘が始まりました。ガザでの負傷した女性や子供たちの様子を連日テレビで見ていると、とにかく平穏な日々が一日でも早くこの地に戻ってほしいと思います。ロシアに見る権威主義的な動きは、最近は中国や北朝鮮だけでなく東南アジアやアフリカの国々でも見られます。また、民族や宗教の対立は、中東でのアラブ人とユダヤ人の対立に限らず、古くから世界のいたる所で見受けられます。いつの時代でも、社会が他者に寛容でなくなったとき、社会の弱いところで権威主義が身をもたげ、民族や宗教の対立が巻き起こり、偏ったポピュリズムが生まれ、その隙を突くように独裁者があらわれて争いを起こします。
日本は戦後80年近くが経ち、国内だけを見ると平和を実感することが乏しくなっています。社会の平和は、私たち一人一人が他者に対して寛容な社会を築くことによって守られます。社会の平和があってはじめて、私たちは幸せな暮らしを求めることできます。幸せと平和についてあらためて考えるとき、幸せは個人の感情であり、平和は社会の状況といえます。幸せが個人一人の感情であれば、平和は社会にある一人一人が幸せな感情をもつことができる状況です。また、幸せが感情であれば、それは個人一人がその感性によって見出すものであり、平和が状況であれば、それは社会にある一人一人がその理性によって培かうものです。
私自身の中には、人々の感性を育むのは美しさであり、人々の理性を育むのは優しさだという強い思いがあります。美しさには、自然美、芸術美、造形美、機能美などがありますが、広範な意味では、善いもの、調和の取れたもの、当り前のようにあるもの、さらには年を重ねていくための生きる力とも表現できます。優しさには、心温かく思いやりがあること、見返りを求めず相手の立場になって考え行動することなどがありますが、相手を受入れながらも相手のために伝える強さ、さらには命を深めていくための寄り添う力とも表現できます。時代を経ても変化しない性質を普遍性と言います。美しさと優しさには、残ることを超えた大きな普遍性があります。美しさは、一人一人の感性を育み、その感性は人々の幸せを見出します。優しさは、一人一人の理性を育み、その理性は社会の平和を培います。
世界の国々の街角に立てば、年を重ねる人々の美しい姿が、命を深める人々の優しい姿が見受けられます。そこには豊かな感性によって見出される幸せな暮らしがあり、豊かな理性によって培われる平和な営みがあります。いつしかウクライナの人々のもとにも、パレスチナの人々のもとにも、そのような暮らしと営みが再び訪れることを願ってやみません。